試合前の「極度の緊張」はパフォーマンスUPのサイン!?最新科学が明かす「プレッシャー」との付き合い方
- トレーナー山下

- 7月27日
- 読了時間: 7分

「大事な試合前になると、うちの子はいつも緊張してしまう」
「試合直前に『緊張して吐きそう』と言い出す選手に、どう声をかければいい?」
スポーツの現場にいる指導者や保護者の方から、このような悩みをよく相談されます。
緊張をほぐしてあげようと「リラックスして!」「いつも通りで!」と声をかけても、なかなか効果がないことも多いのではないでしょうか。
実は、最新のスポーツ心理学・生理学の研究によると、試合前の「適度な緊張」は、メンタルの弱さではなく、体が最高のパフォーマンスを発揮するための準備完了のサインであることが分かっています。
今回は、2017年に発表されたスポーツ競技前の「予期ストレス反応」に関する大規模なメタ分析論文をもとに、緊張の正体と、子どもたちが本番で実力を出し切るための「科学的に正しい声かけ」について解説します。
van Paridon, K. N., Timmis, M. A., Nevison, C. M., & Bristow, M. (2017). スポーツ競技に対する予期ストレス反応:コルチゾール反応性に関するメタ分析を含む系統的レビュー(原題:The anticipatory stress response to sport competition; a systematic review with meta-analysis of cortisol reactivity). BMJ Open Sport & Exercise Medicine, 3, e000261. URL: http://bmjopensem.bmj.com/content/3/1/e000261
1. 緊張の正体は「コルチゾール」
試合前になると、心臓がドキドキしたり、落ち着きがなくなったりします。
これは、目前に迫った試合のプレッシャーを感じることで、脳からの指令により「コルチゾール」というホルモンが分泌されるためです。
コルチゾールは一般的に「ストレスホルモン」と呼ばれ、悪いイメージを持たれますが、決して敵ではありません。アスリートの身体を、激しい運動と心理的な負担に耐えられるよう準備させるための重要な物質です!
今回のご紹介している論文では、過去の25件の研究(対象アスリート合計348名)を統合して分析していました。
その結果
アスリートは試合を前にすると、安静時と比べて統計的に有意な「中等度」のコルチゾールの増加(効果量:g=0.85)を示すことが証明されました。
2. 緊張している時、脳内では何が起きている?
「緊張=パフォーマンスが下がる」と思われがちですが、違います。
研究では、中等度(g=0.85程度)のコルチゾールの増加は、むしろスポーツのパフォーマンスを「向上させる」効果があると考えられています。
適度なコルチゾールが分泌されると、脳の認知プロセスに以下のような恩恵をもたらします!
反応スピードの向上: プレーに必要な情報(ボールの動きや敵の位置など)を認識する反応時間が短くなります。
ノイズの遮断(集中力UP): 気が散るような無関係な刺激や、恐怖を感じるような情報(観客のヤジやミスの記憶など)を脳が自動的に抑制し、目の前のプレーに極限まで集中できるようになります。
要するに
試合前に緊張しているのは「プレッシャーに負けている」からではなく、「脳と身体が、試合という極限状態を生き抜くために戦闘モードへと切り替わっている」証拠ということです。
試合前の緊張を味方につけ、パフォーマンス向上に繋げるための具体的な方法をお伝えします!
「他人の評価」ではなく、目の前の「挑戦」にフォーカス
研究によると、ストレスをどのように「評価・解釈」するかによって、身体への反応が変わることが分かっています。 緊張を「失敗したらどう思われるだろう」といった「社会的拒絶(他者からの評価)」の脅威として捉えると、最適な生理的準備状態を作りにくくなります(これは特に女性アスリートに強く見られる傾向として報告されています)。
一方で、試合というプレッシャーを「やってやるぞ」という「挑戦」や「達成の場」として捉えることで、パフォーマンスを後押しする有益なホルモン分泌が促されます。周りの目は一旦気にせず、自分自身のチャレンジに意識を向けることが大切です!
3. 性別で違う?「緊張」のメカニズム
非常に興味深いのが、このストレス反応には明確な「男女差」があるというデータです。
分析の結果
男子アスリートは試合前にコルチゾールが劇的に上昇する(効果量:g=1.05)のに対し、女子アスリートでは有意な上昇が見られませんでした(効果量:g=0.58)
なぜこのような差が出るのでしょうか?
研究では、ストレスに対する「捉え方」の違いが影響していると推察されています。 男性は試合というプレッシャーを「挑戦・達成の場」と捉えやすく、この「挑戦」の意識がコルチゾールの分泌を強く促します。一方、女性は「社会的拒絶(周りからどう思われるか、失敗して仲間外れにされないか)」という対人関係のプレッシャーに対して、より強く反応する傾向があるとされています。
男子選手: 試合前のガチガチな状態は「アドレナリンやホルモンが出て、戦う準備ができている証拠だ!」と、その状態を肯定的に捉えさせましょう。
女子選手: 単に「勝て!」と結果のプレッシャーをかけるよりも、「チームのみんながついているよ」「失敗しても大丈夫」といった、社会的・感情的な安心感を与える声かけの方が、不要な不安を取り除き、良い精神状態を作れる可能性があります。
4. 試合直前が一番緊張するのは「当たり前」
試合前のどのタイミングで緊張の度合い(コルチゾール値)が高まるかを調べたところ、「試合開始の時間が近づけば近づくほど、コルチゾールの反応が大きくなる」ことが分かりました(統計的にも有意な関連が示されています)。
「さっきのアップまでは笑っていたのに、試合開始の直前になって急に顔色が変わって無口になってしまった…」
指導者や保護者の方は心配になるかもしれませんが、これは身体が本能的に試合への準備をピークに持っていこうとしている、ごく自然な生理反応なのです。
1. 試合直前(ウォームアップ〜試合開始まで):リラックスさせない
論文データによると、アスリートの緊張(コルチゾールの分泌)は、試合開始時間が近づくにつれて大きくなることがはっきりと示されています。 これは脳と身体が、スポーツという極限状態を生き抜くために「戦闘モード」へと自然に切り替わっている生理反応です。
このタイミングで「リラックスして」「緊張をほぐして」と声をかけることは、身体が本能的に作ろうとしている「集中力」や「反応スピード」のピークを無理に下げることになりかねません。
そのため、試合直前(特にウォームアップが始まってから45分前以内など)はリラックスを促すのではなく、「緊張してきているのは、身体が最高の準備をしている証拠」と、その状態をポジティブに受け入れさせる声かけが推奨されます。
2. 試合の数時間前〜前日:過緊張を防ぐためのサポート
一方で、試合前から「失敗したらどうしよう」といった過度な不安を抱え、パニックのような過緊張状態(コルチゾールが過剰になりすぎる状態)に陥っている場合は、早めの対処が必要です。
この場合は、無理に「深呼吸してリラックスしろ」と指示するよりも、指導者やチームメイトとのコミュニケーションを通じて「一人じゃない」「失敗しても大丈夫」という社会的サポート(ソーシャルサポート)を与えることが有効です。会話を通じて安心感を与えることで、ネガティブな不安を、試合に向けた適度な挑戦の意識へと向けることができます。
まとめ:「緊張」は敵ではない
これまでの常識では、「いかに緊張をなくしてリラックスさせるか」が重要視されてきました。しかし、最新のスポーツ医学の観点からは、無理にリラックスさせる必要はありません。適度なストレス反応(コルチゾールの分泌)は、アスリートが最高のパフォーマンスを発揮するために不可欠だからです。
次に子どもが「緊張してヤバい…」と言ってきたら、このように声をかけてみてください。
「緊張しているのは、身体が戦うためのエネルギーをため込み、集中力を限界まで高めている証拠だ」
大人が「緊張=良いこと」という認識を持ち、ポジティブな言葉に変換してあげることで、子どもたちはプレッシャーを味方につけ、本番で持てる力を120%発揮できるようになるはずです!
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