パフォーマンスを下げる「腸」の最新知識
- トレーナー山下

- 2 日前
- 読了時間: 6分

「試合前になると必ずお腹を下してしまう」
「ハードなトレーニング期に入ると、慢性的な便秘でお腹が張って体が重い」
厳しいコンディション調整が求められるアスリートにとって、慢性的なお腹の不調はパフォーマンスを大きく下げる原因になります。
身体の不調と胃腸の状態はリンクするとされております!
もしかするとその症状は、ただの精神的なプレッシャーによる腹痛ではなく「IBS(過敏性腸症候群)」かもしれません。
IBSは決して珍しい病気ではなく、エビデンスに基づいた適切な対策と治療でコントロールしていくことが可能です!
今回は、2025年に発表された最新の「IBS臨床診療ガイドライン(ソウル・コンセンサス)」をもとに、アスリートが今日から実践できる対策や最新の治療法を分かりやすく解説します。
Choi Y, Youn YH, Kang SJ, et al. 2025 Seoul Consensus on Clinical Practice Guidelines for Irritable Bowel Syndrome. J Neurogastroenterol Motil. 2025;31(2):133-169. https://doi.org/10.5056/jnm25007
プレッシャーと激しい運動が引き起こす「脳と腸のつながり」
過敏性腸症候群(IBS)の発症や悪化には、遺伝や環境、過去の胃腸の感染症、そして「精神的ストレス」が深く関わっています。
「脳腸相関(のうちょうそうかん)」
という脳と腸の密接なつながりです。
試合へのプレッシャーや不安を脳が感じると、そのストレスサインが自律神経を通じて腸に伝わり、腸の動きが過敏になります。
さらに、過去に合宿などで胃腸炎などの感染症にかかった経験がある方は、それが引き金となってIBSを発症しやすいことも分かっています 。IBSは決して「メンタルが弱いから」起こるわけではなく、過酷な環境下で戦う身体の中で起きている、確かなメカニズムによるものなのです。
腸の状態はアスリートの健康を管理するうえで腸内環境について考えていかなければなりません!
最新の診断アプローチ
「お腹の調子が悪いから病院に行ったけれど、色々な検査をされて結局異常なしと言われた」
という経験はありませんか?
これまで、IBSの診断は「他の重大な病気がないか」を様々な検査で徹底的に調べて、何も見つからなかった場合に初めてIBSと診断する「除外診断」が主流とされてきました。
しかし、最新のガイドラインでは新しい常識が推奨されています。
血便、夜間の下痢、原因不明の急激な体重減少などの危険なサインがない典型的なIBS症状の場合、症状からすぐにIBSと診断して治療を始める「ポジティブ(積極的)診断」が推奨されています。
練習や遠征で忙しいアスリートにとって、病院でのダラダラとした検査は大きな負担になります。このアプローチにより、不要な検査を繰り返す体力的・経済的な負担を減らし、いち早くコンディション回復のための治療をスタートさせることができます。
まずは医師の診断を受けることが大切です!
自分でできる最新の対策
医療機関での治療はもちろん大切ですが、日々のコンディショニングの一環として自分自身でできる対策もたくさんあります。最新のガイドラインで有効性が認められている2つのセルフケアをご紹介します。
1. お腹の張りを防ぐ「低FODMAP(フォドマップ)食」
IBSの全体的な症状やお腹の張りを改善する食事法として「低FODMAP食」が有効です。FODMAPとは、小腸で吸収されにくく、腸内で発酵してガスを発生させやすい糖類のことです。
避けるべき高FODMAPな食品の例 :小麦、玉ねぎ、にんにく、牛乳、リンゴ、スイカなど
おすすめの低FODMAPな食品の例:米、オーツ麦、バナナなど(※一般的な低FODMAP食品として知られています)
試合前やハードな練習期間にパスタ(小麦)などでカーボローディングを行っている場合、それがお腹の不調の原因になっている可能性があります。まずは数週間、高FODMAPな食品を避けてみて、お腹のコンディションがどう変化するかを観察してみるのがおすすめです。
高FODMAP全ての食品が症状を出すということではなく、人それぞれ症状が出る食材が異なります!
2. 「激しい追い込み」ではなく「低強度の運動」
アスリートにとって運動は日常ですが、IBSの観点からは注意が必要です。激しすぎる高強度のトレーニングは、腸の粘膜バリア機能を低下させてしまい、かえって胃腸の症状を悪化させる恐れがあるのです 。
IBSの症状が辛い時は、無理に追い込むのではなく、ウォーキング、ヨガ、サイクリングといった「ゆっくりとした低強度の運動」が推奨されています 。アクティブリカバリーのつもりで、リラックスしながら体を動かす日を作りましょう。
胃腸が弱い選手は追い込み過ぎないことが大切です!
医療での治療アプローチ
「食事や運動に気をつけても良くならない…」と落ち込む必要はありません。現在の医療では、IBSに対して非常に多様なアプローチが用意されています。
プロバイオティクス(乳酸菌やビフィズス菌など) 腸内環境を整え、お腹の張りや痛みを和らげる効果が期待できます。
症状に合わせたお薬 下痢や便秘など、それぞれの症状に合わせて腸の動きを整える薬や、お腹の痛みを和らげる鎮痙薬などが有効です。
腸指向型心理療法(認知行動療法やリラクゼーションなど) 通常の治療でなかなか改善しない場合、脳と腸のつながりに直接アプローチする心理療法も選択肢の一つとして推奨されています。
抗うつ薬(低用量)の使用 うつ病の治療で使われるよりも少ない量のお薬を使用することで、痛みの感覚を調整し、腹痛などの症状を改善させることがあります。
まとめ
IBSは、アスリートの心身を削り、パフォーマンスにダイレクトに影響を与える辛い症状です 。しかし、最新の研究によってそのメカニズムは解明されつつあり、効果的な対策や治療法もどんどん進化しています。
お腹の不調を感じたら、「メンタルが弱いせいだ」と自分を責めず、消化器内科などを受診してみてください。「ポジティブ診断」によって素早く治療のスタートラインに立ち、食事やリカバリーの工夫を取り入れながら、不安なく試合に臨める最高のコンディションを取り戻しましょう!
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